VOL .45 [ツィードは大人の証] 2010.12.14掲載

ファッションコーディネイトでは、一般的に着こなすのが難しいと思われているひとつに、ツィード素材があります。最近では、ブーツに帽子にと、様々なアイテムに汎用され、若い世代層にもじわじわと脚光を浴び出してきました。

私は、ツィードが似合う男達には、何か共通点があるのではないかと、前々から思っていました。人生でツィードジャケットを初めて購入したのは、たぶん30代前半の頃。今思えば、ツィードのいろはも知らず、着こなす手立ての未熟さもあって、自分には少し早かったのかなと振り返ります。

ということは、あれから10年以上も経過して、当然歳も取り、今ではツイード世代に突入しているということでしょうか(笑)。いやいやツイード世代と言っても、別に何歳からであるとは決められるものではありません。

しかしながら、ツィードには着る人の人柄や雰囲気を滲(にじ)ませてくれる「温かさ」や、一本筋の通った武骨然とした「凛々(りり)しさ」を感じさせてくれます。それは、あたかもリトマス紙に炙り出されるように、着る人のこれまで辿ってきた人生を雄弁にも語ってくれる、魅力ある生地素材だと思います。

では、「ツィードのいろは」とは一体なんでしょうか。少しだけではありますが、誕生の歴史から簡単に紹介したいと思います。

発祥は、約150年ぐらい前にスコットランドの田舎町ではじまり、元々は労働者階級の作業服が原型だったのですが、生地の良さ・防寒性の高さに目をつけた英国貴族らが、自らが高尚趣味で興じる乗馬やハンティングなどの衣服に取り入れて、次第に大衆へと広がりだしたのが、そもそもの始まりであったのです。

ツィードの中でも、最も有名な「Harris Tweed:ハリスツィード」は、皆さんもご存知でしょう。わかりやすく言えば、お酒のシャンパンの格付けと似ていて、フランス・シャンパーニュ地方で作られるものだけをシャンパンと呼べるように、ハリスツィードもスコットランド北西部地方の一角で完全生産されたものだけを、そのように呼べるのです。今ではハリスツィードは、トラッドを極め込む諸氏たちには、最高品質のトレードマークと称され、王道化されつつもあります。

代表的なツィードジャケットの着こなしには、おおまかにヘリンボーン柄のテイラードジャケットに象徴される「昔のアメリカンジャーナリスト風」と、ゲームジャケットに代表される「本場ブリティッシュカントリー風」に分かれます。前者は、エディターやクリエイター風を気取った知性派を演出し、後者は、英国紳士風な優雅さを漂わせるテイストを楽しめます。

要するに、冒頭でお話したツィードが似合う男の共通点とは、「大人の上品さ」につながるのだと思います。人は歳を積み重ねるうちに、シワも増え、髪も白くなり、筋肉も自然と削ぎ落とされてゆくものです。それは自然の摂理であって、決して悪いことではありません。大人は、そのように少しずつ衰えてゆく体力に替わるものを手に入れようと、経験則であったり、智慧といった鎧を纏うために自己研鑽に励み、衣服にも同じポリシーでもって選ぶのだと思います。ツィードとは、そんな大人のテイスト感にジャストフィットとした服なのでしょう。

街でツィードを着こなす大人の男性を見かけると、「この人は、キレイに歳を積み重ねているんだな」と、微笑ましくなってきます。日本にも、そんな素敵な大人たちがもっともっと増えてくれれば、この国の未来も明るいですよね。


添付写真:愛用のクレイジーパターンのグレー・ヘリンボーンジャケットの上には、ツィード生地のキャスケットとテディたち。

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Written by Yasumoto Takashi

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