VOL .56 [選ばれしハンドメイド] 2011.04.12掲載

最近、いたるところで「職人」という言葉がフーチャーされています。ファッション業界ではファストファッションが隆盛する昨今、かたや手作り感たっぷりの洋服が一部で売れているとも聞きます。今回は、ファッションの世界に於ける「職人」と銘打って考察してみました。

ところが、世間一般でいう職人という人を深く掘り下げ、どんな仕事をする人なのかを定義してみると、これがなかなか難しく、境界線すら付けにくい世界ではないかと思えてきたのです。

例えば、一流のホテルマンを見ても、あの人たちは一度会ったお客様の顔と名前を忘れないで、自分の頭の中には何千、何万の顧客リストがインプットされているという。かたや名俳優さんが、台本を一度頭に入れてしまえば、撮影現場に台本を持ってこないで本番に臨むという人もいる。名医師を見ても、手術での血管と血管を縫いつける手さばきは、圧巻としか言いようがない。そう考えると「物」を作らなくても、職人技と言えるのに値する人たちが世の中には、いくらでも存在するのではないかと再認識します。言うなれば皆さんは「プロ中のプロ」ということです。

俗に、すべての工程を機械では作れない、手作業でモノを作り出す人を「職人」と呼ばれるのですが、「モノづくり大国日本」と呼ばれてすでに久しく、日本人特有の繊細な手業は、世界に誇れる輸出技術にもなり、実は「職人大国日本」と言ったほうが正しいのではと思えてきます。また、職人の中の数少ない優れた職人のことを「トップマイスター」と呼ぶということも、今回のコラム思案の段階で学びました。

そこで、今回のテーマは、ファッションの世界での職人に絞ってフォーカスしてみようと思います。

ファッション業界での職人と聞くと、思いつくのは「スーツ職人」「靴職人」「鞄職人」「デニム職人」「シルバーアクセサリー職人」「メガネ職人」と挙げればまだまだありそうですが、言うなればハンドメイド(手作り)と言われている世界です。

特にこの世界は、作り手に「自分のこだわり」を持つ男性が大半を占め、ほとんどの職人は「世界でひとつだけ」という、仕事の理念を掲げている人々とお見受けします。ということは、買い手(お客様)にも、その価値・そのこだわりに共感する人たちであるというのは自明の理。

しかし、あえて言葉にするとならば、①量産できない少量生産の希少性 ②お客様オリジナルの特別仕様 ③世界でひとつだけのカスタム商品 ④作り手の温もりや信頼感をダイレクトに感じられる品々といった価値がハンドメイドにはあるのでしょうか。

モノが溢れ使い捨てが常習化されている現代に、あえて挑戦するハンドメイドを支える職人たちの未来は、卓越した技術も然ることながら、世界基準となるセンス(美意識)の構築が今求められています。

日本のモノづくりは、これから更に世界に流れ出し、日本人特有の美意識を完成させていって頂きたいと思います。そして同時に、その職人技で作られた良質の品々に出会うチャンスがあれば、使い手に相応しい大人の器量も身につけておきたいと、自身切に願う所であります。

男の道具選びとは、作り手の創作魂が丹念に込められているモノほど、自然と使い手にも愛着が湧いてくるものです。そこにハンドメイドの真骨頂があるのですね。
 

添付写真:ハンドメイドのメガネ&スマートフォン・ケース(本革パイソン)

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Written by Yasumoto Takashi

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