VOL .65 [粋とは何か] 2011.10.09掲載

最近、とんと聞こえてこなくなってしまった言葉に『粋:いき』というものがあります。もともとは江戸時代からの遊興の場で使われたり、人情事でのスマートな振る舞いに対して、称賛の意味を込めての使われようでありました。現在でもよく使われるフレーズには「粋なヤツだね!」「粋な計らいだ!」「粋な事してくれるよね!」などがあります。

そこで今回は「粋」をテーマに私なりの考察をしてみたいと思います。皆さんは先程のようなフレーズを耳にして、どんな人・どんなシーンを思い浮かべるのでしょうか。私ならすぐさま「サプライズシーン」といったところでしょうか。

人は自分の予想や想像を超えた行動に共感したり、感動した時に「粋」という言葉をよく使うことが多いのかもしれません。記念日に意外な計らいや思い出のプレゼントを用意されたりして、あっと驚く遊びゴコロには「粋」というフレーズがぴったりですよね。「粋」のエッセンスには、スマートな仕草やガツガツとしないといった、しなやかさも必要とされるのでしょう。

では、ファッションの中での「粋」を表現するのであればどうなるのでしょうか。例えば、全身洗練されたスーツに身を包み、足元にはキャンパス地のスニーカー(コンバースなど)なんてどうでしょうか?まさに粋なハズシのテクニックです。はたまた、フォーマルシーンの中に、ひとり颯爽と着物で登場したら注目度抜群で、これもまた粋な着こなしになりますよね。

また、差し色テクニックも「粋」な感覚が生かされます。全体のコーディネート・トーンが地味であっても、そこにワンポイントにビビットな原色(赤・青・黄色など)を持ってくれば、一気に華やかさが加わります。ファッションの中にもこういった意外性や色のサプライズ感覚でいう「粋」というものも存在するのだと思います。

ファッション用語の中にも、過去のファッションの要素を自由に組み合わせたスタイルのことを「エイジ・リミックス」と言いますが、このように奇抜で斬新な発想は「粋の世界」にも通じるものがあると考えます。ある意味、粋風ファッションは無限大に広がりそうです。

さて、この「粋」と「ハズシ」の共通点には、いつも「遊び心」というエキスが隠されているように思います。粋な表現者の遊び心は、周りの雰囲気を解(ほぐ)し、人の心を潤してゆくとことになります。いつも何かをやってくれるだろうという愛すべきキャラクターの人は、皆さんの周りにも必ずいるのではないでしょうか。そう言えば、私の所属事務所社長の人生テーマは「遊び心」という話を以前に社長と二人で話をしたことがありました。社長がそこにいるだけで場を盛り立ててくれる才能には、いつも感心させられております。

結局、「粋」というエッセンスなるものを表現するには、一体どういう心構えをすればいいのでしょうか。単に人より目立てば良いのでしょうか、はたまた、人より抜きん出れば良いのでしょうか、とても難しいさじ加減が必要とされます。そこにはいつでもブレーキを掛けれる自制心のコントロールというものがありつつ、調和的な心の統御も試されております。人は得をする方、楽な方へと流れてしまいがちですが、ブレーキの加減を見間違えると、あとあと大変なことになりかねませんよね。

今の世の中、SNSの発達と共に、謙虚であるという美徳なるものが煙たがられる風潮を普段生活をしていると、時々感じることがあります。ガツガツと前へ前へと突き進む自己顕示欲なるものも時には必要ではありますが、時折一歩引いた自分を見てみることも大事であります。

これからも本当の粋な生き方を探究してみる価値は自分にとっても十分ありそうです。このコラムを書きながらも自戒と改めて襟を正す決意をする次第であります。自身まだまだ未熟者ではありますから、粋な人にはとても憧れてしまいます。


添付写真:今回のコラムにあたって、「粋」というテーマにひらめいたイメージは、写楽の描いた浮世絵でした!

関連コラムの検索に便利 「プライベートコラム 目次」

【次号予告】 テーマ:果たして「一生もの」とは、存在するのか?(VOL.66)

Written by Yasumoto Takashi

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>