VOL.75 [英国スタイルとは] 2012.05.20掲載

英国では、5月にエリザベス女王在位60年を祝う行事を迎え、7月にはロンドン五輪が開催されます。否応なしに英国全土が盛り上がる気運。そんな英国フィーバーに便乗してか、一部の自国ファッションブランドもここぞとばかりに、様々な記念商品を発売し、活気づいているようです。

英国を代表するファッションブランドといえば、すぐさま頭に浮かぶところでは、バーバリー(衣料)・ダンヒル(衣料)・ポールスミス(衣料)・フレッドペリー(衣料)・グローブトロッター(鞄)・ジョンロブ(靴)・オリバーゴールドスミス(眼鏡) . . . などなど。

今回のテーマは、ジェントルマン発祥の地である、英国の美意識なるものをスーツスタイルから少しだけ紐解いてみようと思います。

世界のスーツスタイルには、大きく分けて「ブリティッシュ」「クラシコイタリア」「フレンチ」「アメリカントラッド」と、基本四つのスタイルに分類できます。

ブリティッシュの一番の特徴は、ショルダーラインのシルエットでしょうか。厚めの肩パットを取り入れることで、ショルダーラインをしっかりと強調させ、スーツ全体がどこから見ても構築されたシルエットに仕上げてあります。

それに比べてクラシコイタリアは、ショルダーラインをあまり強調し過ぎずに、自然なドレープのようなラインをモットーに作り上げています。

フレンチは、まだまだ馴染みが浅くブリティッシュとクラシコイタリアの中間ぐらいに位置づけられ、女性的ラインが加味されています。

最後にアメリカントラッドは、着る人の体型を選ばないように、ショルダーラインも少しゆったり目にとり、全体が箱型シルエットのように、敢えてディテールのクセを消し込んで作られています。

また、四つのスタイルの違いでは、ウエストの絞り具合、ラペルの型、ポケットの形状、ベントの種類と細部によって違ってきます。しかしながら、昨今のスーツスタイルには、以前よりも明確さをあまり主張せず、いいとこ取りといった「ミックススタイル」が多く見られます。

英国スタイルの美意識は、スーツひとつをとっても、細部までも構築的に作られており、あたかもスポーツ競技で鍛え上げられた肉体を前提につくられているかのようです。国民性からも武骨ながらも凜と真面目な創作姿勢が随所に見受けられ、一見、主張し過ぎず控え目でありながらも、一本芯が通った質実剛健さや、頑なに伝統を重視するといった具合も垣間見ることができます。そおいった部分は、我々日本人に共感を呼ぶところであります。

得てして、こうした「伝統:トラディショナル」をとことん追求するモノづくりは、飽きのこない良いものが生まれ、それが時に新鮮にも映り、トレンドに流されない力強さを感じさせてくれます。はたまた、長年培った伝統をベースに斬新なデザインを打ち出すブランドも中にはあり、パンクカルチャーを生んだ地ならではのウィットさは、英国スタイルの妙味といえましょう。

そして、なんと言っても、英国スタイルのバックボーンには、泣く子も黙る「英国王室御用達」といった称号が、今だに絶大な影響力を放っています。オトコゴコロをくすぐる階級制度を巧みに操るところなどは、英国スタイルの最大にして最強の強みなのかもしれません。開かれた英国王室と共に、これからの英国スタイル、ますます目が離せませんね。


添付写真:典型的な英国スタイル(ブリティッシュ)のシングルスーツ。ショルダー部分には厚めのパットを入れ、ウエスト部分はかなり絞り込み、ポケット部分は斜めに設置することによって胸板を強調させるという、すべてが男らしさを主張するための立体構造でつくられている。

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Written by Yasumoto Takashi

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